2026年8月14日

「先生、お酒はほとんど飲まないんですけど、脂肪肝って言われました」
糖尿病の外来では、ときどきこんな相談を受けます。
「脂肪肝」と聞くと、お酒をたくさん飲む人の病気というイメージを持っている方も多いかもしれません。
でも、実際にはそうとは限りません。
むしろ糖尿病の診療をしていると、脂肪肝は決して珍しいものではありません。
最近では「NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)」という呼び方から、MASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)という新しい名前が使われるようになっています。これは、脂肪肝が単に「お酒を飲まない人の肝臓の病気」なのではなく、肥満や糖尿病、脂質異常症、高血圧などの代謝の問題と深く関係していることを、より分かりやすく表した名前です。
糖尿病と脂肪肝の関係
糖尿病と脂肪肝には、かなり密接な関係があります。
血糖値が高い状態が続いている人では、インスリンが効きにくくなる「インスリン抵抗性」が起こっていることがあります。インスリンは、血液中のブドウ糖を筋肉などの細胞に取り込ませる働きをしています。ところがインスリンが効きにくくなると、体は「もっとインスリンを出さなければ」と頑張ります。その結果、血液中のインスリンが高い状態になり、肝臓にも脂肪がたまりやすくなります。
ですから、糖尿病の患者さんで腹部エコーをすると「脂肪肝がありますね」と言われることは、決して珍しくありません。
2型糖尿病の患者さんでは、脂肪肝がかなり高い頻度でみられることが知られています。
「痩せているから脂肪肝は大丈夫」は本当?
ここもよくある誤解です。
確かに、体重が多い人ほど脂肪肝になりやすいのは事実です。
でも、痩せている人にも脂肪肝は起こります。
特に日本人を含むアジア人では、欧米人と比べてそれほどBMIが高くなくても、内臓脂肪がたまりやすかったり、インスリン抵抗性を起こしたりすることがあります。
「太っていないから大丈夫」「見た目は普通だから大丈夫」とは限りません。
健診で「脂肪肝」と言われたら、体重だけで判断せず、血糖値やHbA1c、コレステロール、中性脂肪、血圧なども一緒に確認しておくことをおすすめします。
脂肪肝って、放っておいてもいいの?
脂肪肝と聞いて、「別に痛くないし、放っておけばいいですよね?」と考えてしまう方もいます。
たしかに、脂肪肝そのものでは症状がほとんどありません。肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれることがありますが、本当に症状が出にくい臓器です。
ただ、ここで大事なのは、「脂肪がついていること」そのものより、その先で何が起きているかです。
肝臓に脂肪がたまっているだけの人もいます。
一方で、その一部では肝臓に炎症が起こり、徐々に線維化、つまり肝臓が硬くなっていく変化が進むことがあります。
この状態が「MASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)」です。
線維化が進行すると、将来的に肝硬変や肝がんにつながることもあります。
ですから、脂肪肝を指摘されたときに大切なのは、肝臓にどのくらい脂肪があるのかだけではなく、線維化のリスクがないかを確認することが重要です。
ASTやALTが正常なら安心?
これも患者さんからよく聞かれる質問です。
「健康診断でASTとALTが正常だったので、肝臓は大丈夫ですよね?」
実は、そうとも限りません。MASLDでは、肝臓に脂肪がたまっていても、血液検査のASTやALTがそれほど高くならないことがあります。
そのため、血液検査だけでなく、腹部超音波検査などの画像検査や、必要に応じてFIB-4 indexなどを使って肝線維化のリスクを評価することがあります。
糖尿病の診療では、血糖値やHbA1cだけでなく、肝臓についても一緒に確認していくことが大切です。
では、脂肪肝はどうしたらよくなる?
ここで患者さんに一番お伝えしたいのが、「脂肪肝は、自分で改善できる病気です」ということです。
特に大切なのは体重の管理です。
もちろん、いきなり大幅な減量を目指す必要はありません。
研究では、体重を5%程度減らすだけでも肝臓にたまった脂肪が減ることが分かっています。
さらに7〜10%程度の減量ができると、肝臓の炎症や線維化にも良い影響が期待できます。10%を超える減量では、肝炎や線維化の改善がより期待できるという報告もあります。
例えば70kgの方なら、5%で約3.5kg。10%でも7kgです。
「7kgも減らさないといけない」と考えると大変ですが、まずは3〜4kgを目標にするだけでも意味があります。
ここは、私が外来でお話しするときにも大切にしているところです。
最初から完璧を目指す必要はありません。
食事は何を気をつければいい?
脂質だけを気にするのではなく、食べる量そのものと、糖質の質にも目を向けることが大切です。
特に、ジュースや清涼飲料水、甘いお菓子などに含まれる糖分の摂りすぎには注意が必要です。
「脂肪肝だから果物は全部禁止」「炭水化物は一切食べない」というような極端な制限をする必要はありません。
野菜や魚、大豆製品、全粒穀物などを取り入れながら、全体のエネルギー量を少し見直していく。
そのくらいのところから始めてみるのがおすすめです。
そして、運動も大切です。
体重がすぐに減らなくても、運動によって肝臓の脂肪が減ることがあります。
「体重が減らないから運動しても意味がない」ということではありません。
ここは意外と知られていないポイントです。
糖尿病の治療を見直すことが、肝臓にもつながる
糖尿病と脂肪肝が一緒にある場合には、血糖値だけでなく、体重や脂質なども含めて治療を考える必要があります。
最近は、マンジャロなど、体重減少を通して肝臓にも良い影響が期待される糖尿病治療薬について研究が進んでいます。
2025年の米国糖尿病学会の治療方針でも、2型糖尿病に加えて過体重・肥満とMASLDがある場合には、マンジャロなどのGIP/GLP-1受容体作動薬を治療選択肢として検討することが示されています。
もちろん、「脂肪肝があるから、この薬を使えばいい」という単純な話ではありません。
糖尿病の状態、体重、腎機能、心血管リスク、これまでのお薬などを見ながら、その人に合った治療を選ぶ必要があります。
脂肪肝は「肝臓だけの問題」ではありません
脂肪肝があると、「肝臓の問題だから肝臓だけ見ればいい」と思ってしまいがちです。
でも、MASLDの背景には、糖尿病、内臓脂肪、脂質異常症、高血圧など、さまざまな代謝の問題があります。
だからこそ、私は脂肪肝を「肝臓だけの病気」としてではなく、体全体の代謝状態を見直すきっかけとして考えてほしいと思っています。
健診で「脂肪肝があります」と言われた方。お酒をほとんど飲まないのに肝機能障害を指摘された方。
糖尿病や血糖値の異常を指摘されている方。
一度、肝臓の状態をきちんと確認してみませんか?
脂肪肝は、症状がないからこそ放置されやすい病気です。
でも、早い段階なら、生活習慣を少し変えることで改善できる可能性があります。
当院では、糖尿病や肥満、脂質異常症などの治療とあわせて、脂肪肝についても一緒にご相談いただけます。