2026年8月14日

前回のコラムでは、2型糖尿病の治療薬「マンジャロ」についてご紹介しました。
マンジャロは、血糖値を大きく改善するだけでなく、体重減少も期待できる薬です。
では、マンジャロの効果は「血糖値」と「体重」だけなのでしょうか?
実は最近、マンジャロについて、心臓や腎臓に関する興味深い研究結果も報告されています。
今回は、マンジャロの「もう一つの可能性」についてお話ししたいと思います。
糖尿病というと、「血糖値が高くなる病気」というイメージが強いと思います。
もちろん血糖値を良好に保つことは非常に重要です。
しかし、糖尿病で本当に注意したいのは、血糖値が高い状態が長く続くことで起こる合併症です。
特に重要なのが、心臓や血管の病気と腎臓の病気です。
糖尿病では動脈硬化が進みやすく、
心筋梗塞
狭心症
脳梗塞
心不全
などの心血管疾患のリスクが高くなります。
また、腎臓の細い血管が傷つくことで「糖尿病性腎症」を発症し、徐々に腎機能が低下してしまうこともあります。
つまり、糖尿病治療では、「HbA1cを下げる」だけではなく、「将来、心臓や腎臓を守る」ことも非常に重要なのです。
では、マンジャロは心臓にどのような影響があるのでしょうか?
これを調べた大規模な臨床試験が「SURPASS-CVOT」です。
この研究では、心血管疾患をすでに持っている2型糖尿病患者さんを対象に、マンジャロ(チルゼパチド)とデュラグルチドという薬を比較しました。
注目されたのが、心血管死・心筋梗塞・脳卒中という、糖尿病患者さんにとって非常に重要な「主要心血管イベント」です。
その結果、マンジャロはデュラグルチドに対して、これらの主要心血管イベントについて**「劣らない」ことが確認されました**。
ここは医学的にとても大切なポイントです。
「マンジャロを使うと心筋梗塞や脳梗塞が減ることが証明された」という意味ではありません。
一方で、少なくともマンジャロは、心血管疾患のリスクが高い2型糖尿病患者さんにおいて、比較対象となったデュラグルチドに対して心血管安全性を示したということです。
さらに研究を詳しく解析すると、興味深い結果が見えてきました。
2026年に発表されたSURPASS-CVOTの追加解析では、心血管イベントだけではなく、心不全や腎臓に関するイベントも含めた「心腎複合アウトカム」が評価されました。
その結果、マンジャロ群ではデュラグルチド群と比較して、この心腎複合アウトカムのリスクが16%低下しました。
「心臓」と「腎臓」。
この2つは、実はお互いに深く関係しています。
心臓の状態が悪くなると腎臓にも負担がかかり、腎臓の機能が低下すると、今度は心臓や血管にも負担がかかります。
このため、最近の糖尿病診療では、**「心腎連関」**という考え方がとても重要になっています。
マンジャロで腎臓も守れる?
さらに注目したいのが腎臓への影響です。
糖尿病性腎症は、糖尿病患者さんにとって非常に重要な合併症です。
腎機能が徐々に低下すると、最終的には透析が必要になることもあります。
2026年に報告されたSURPASS-CVOTの腎臓に関する解析では、マンジャロを使用した患者さんでは、デュラグルチドを使用した患者さんと比較して、主要な腎イベントのリスクが23%低下しました。
また、腎機能を表す重要な指標であるeGFRについても、マンジャロ群では低下速度がより緩やかでした。
もちろん、これらの研究結果だけで、
「マンジャロを使えば腎不全にならない」
ということではありません。
しかし、血糖値や体重だけではなく、腎臓を守るという観点からもマンジャロの可能性が研究されていることは、とても興味深いことです。
ここまで読んで、「マンジャロってそんなにいい薬なら、私も使ったほうがいいの?」と思われた方もいるかもしれません。
しかし、糖尿病治療で大切なのは、その人の体質や生活習慣、血糖値、体重、腎機能、心臓の状態、他のお薬などを考えながら、最も適した治療を選択することです。
マンジャロにも、吐き気、下痢、便秘、嘔吐、急性膵炎などの消化器症状をはじめとした副作用があります。
また、すべての2型糖尿病患者さんにマンジャロが適しているわけではありません。
だからこそ、自分にとってどの治療が一番いいのかを糖尿病専門医と一緒に考えることが大切です。
マンジャロは「血糖値を下げる薬」から、その先へ
マンジャロは、これまでの糖尿病治療のイメージを大きく変えた薬の一つです。
HbA1cを改善する。
体重を減らす。
そして現在では、心臓や腎臓に対する影響についても、さまざまな研究が進んでいます。
糖尿病治療の目標は、単に「血糖値を正常にすること」ではありません。
将来、心筋梗塞や脳梗塞を起こさず、腎臓の機能をできるだけ長く保ち、元気に生活すること。
そのために、血糖値だけでなく、体重、血圧、コレステロール、腎機能などを総合的に管理していくことが大切です。
当院では、糖尿病専門医として、HbA1cだけを見るのではなく、将来の合併症まで考えた治療を大切にしています。
「マンジャロについて詳しく知りたい」
「自分にも使えるのかな?」
「今の治療を見直したほうがいいのかな?」
そんな疑問があれば、ぜひお気軽にご相談ください。